冤罪マップ

クリス事件

クリストファー・スティーブン・ペイン(Christopher Steven Pain)

冤罪の疑い公判中IPJ

2018年7月12日午前0時10分頃、千葉県市川市で帰宅途中の女性が何者かに襲われ口淫される事件が発生した(強制性交等致傷、現・不同意性交等致傷)。女性はその場で精液を吐き出し、帰宅後にうがいをして警察に届け出たため、口腔内から採取された犯人由来の資料は微量かつ被害者細胞との混合試料となった。

クリストファー・スティーブン・ペインさんは2020年2月、酔って他人の家の玄関で寝てしまい住居侵入罪で現行犯逮捕された。すぐ釈放されたが、その際に口腔内細胞を任意提出していた。千葉県警科学捜査研究所が「女性の口から採取したDNA型と矛盾しない」としたため、事件から3年4か月が経った2021年11月25日にペインさんは突然逮捕され、翌12月に起訴された。ペインさんは「DNA鑑定が性犯罪の決め手となることは知っている。性犯罪をしていたら、任意で口腔内細胞を提出するはずがない」と述べている。

一審では、国選弁護人の求めで千葉地裁が職権により神奈川歯科大学の山田良広教授にDNAの再鑑定を依頼した。山田教授は「被告人と犯人のDNA型は矛盾しない、一致すると仮定した場合の出現頻度は約17兆人に1人」と断言し、2024年7月9日、千葉地裁(水上周裁判長)はこれを根拠に懲役8年の有罪判決を言い渡した。ペインさんは事件当時、渋谷のスポーツバーで勤務しており、事件直後の時間帯に当時の交際相手に「Miss you so much」とメッセージを送信していたが、裁判長は「犯行直後に交際相手にメッセージを送信することもあり得る」としてこれを退けた。

控訴審に向けて、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ・石塚章夫理事長)と弁護団(竹田真主任弁護人)は、足利事件の雪冤で知られる佐藤博史弁護士の協力を得て再検証に入った。2025年2月に鑑定の生データとオリジナルのEPG(エレクトロフェログラム)が開示され、弁護団の角替清美弁護士がこれをサンフランシスコのDNA鑑定専門家サイモン・フォード氏に送付。フォード氏は、生データから作成したEPGと山田鑑定書のEPGを照合した結果、山田教授がペインさんのDNA型を複数「加筆」する一方、ペインさんとは異なる第三者のDNA型を削除し、真犯人とペインさんのDNA型が一致するようデータを改ざんしたと結論づけた。藤田法科学研究所の藤田義彦氏(元徳島文理大学薬学部教授)も「いずれも加筆されている」との意見書を提出した。上告趣意書によれば、山田鑑定は①なかったペインさん由来のデータを加筆、②ペインさん由来ではなかったデータを削除、③電気泳動を31回試行しながら鑑定書には採用した4回分だけを記載し他を記載しない、という手法だったとされる。

千葉地裁の証人尋問で山田教授は、ある座位で被害者の型しか検出されなかった場合について「同じ型と判断し、検出されていないとは考えない」「そこだけ出ていないなら不都合がありますので、他の座位が比較的きれいに二人分として出ていて一か所だけ被害者しか出ていないとなれば、そこも出ていて重なっていると判断します」と証言した。弁護団はこれを、被告人のDNA型をあらかじめ知っていたことによるバイアスの産物だと指摘し、角替弁護士は「答えを知って試験を受けるようなものです」と述べている。

2025年12月11日、東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)は懲役8年の一審判決を破棄し、審理を千葉地裁に差し戻した。判決は、生データを解析したところ4つの座位で山田鑑定と異なる結果になったと認定し、「付着物には、被告人のDNAとも被害者のDNAとも異なるDNAが含まれており、型として判定されなければならないものを、合理的な理由もなく削除したということができるようにも思われる」と疑義を認めた。一方で「試料が少なく、アレルドロップアウトが生じた可能性も否定できない」として断定は避けている。

弁護人は「山田鑑定への疑義から有罪判決を破棄したのなら、東京高裁は無罪判決を出すべきだ」として無罪自判を求めて上告したが、2026年6月20日、最高裁第一小法廷(宮川美津子裁判長)はこれを棄却し、千葉地裁での差戻審に進むことになった。ペインさんは逮捕から約4年にわたり勾留が続いており、弁護団が医師の意見書を添えて複数回行った保釈請求はいずれも却下されている。2026年3月には米国から来日した母親が日本外国特派員協会で会見し、有罪判決が取り消されてなお身柄が拘束されていることを訴えた。

本件は、足利事件以来のDNA鑑定による冤罪として「第2の足利事件」と位置づけられ、IPJが支援している。IPJ事務局長の笹倉香奈・甲南大学教授は、生データに基づく鑑定検証が日本の刑事手続で徹底されてこなかった問題を指摘し、科捜研を警察から独立した「科学者の組織」とすべきだと述べている。

逮捕年
2021
解決年
—
期間
5年+
確定判決
一審:懲役8年(2024年7月9日、千葉地裁) → 控訴審:原判決破棄・差戻し(2025年12月11日、東京高裁第4刑事部) → 差戻審係属中
都道府県
千葉県
地域
関東
捜査機関
千葉県警
時代
現代
刑事手続き進行度
捜査
逮捕
起訴
一審
控訴審
上告審
確定
服役
再審
逮捕起訴一審有罪→ 控訴審で原判決破棄・差戻し(差戻審係属中)
通過有罪等無罪等進行中

2018年7月12日午前0時10分頃、千葉県市川市で帰宅途中の女性が何者かに襲われ口淫される事件が発生した(強制性交等致傷、現・不同意性交等致傷)。女性はその場で精液を吐き出し、帰宅後にうがいをして警察に届け出たため、口腔内から採取された犯人由来の資料は微量かつ被害者細胞との混合試料となった。 クリストファー・スティーブン・ペインさんは2020年2月、酔って他人の家の玄関で寝てしまい住居侵入罪で現行犯逮捕された。すぐ釈放されたが、その際に口腔内細胞を任意提出していた。千葉県警科学捜査研究所が「女性の口から採取したDNA型と矛盾しない」としたため、事件から3年4か月が経った2021年11月25日にペインさんは突然逮捕され、翌12月に起訴された。ペインさんは「DNA鑑定が性犯罪の決め手となることは知っている。性犯罪をしていたら、任意で口腔内細胞を提出するはずがない」と述べている。 一審では、国選弁護人の求めで千葉地裁が職権により神奈川歯科大学の山田良広教授にDNAの再鑑定を依頼した。山田教授は「被告人と犯人のDNA型は矛盾しない、一致すると仮定した場合の出現頻度は約17兆人に1人」と断言し、2024年7月9日、千葉地裁(水上周裁判長)はこれを根拠に懲役8年の有罪判決を言い渡した。ペインさんは事件当時、渋谷のスポーツバーで勤務しており、事件直後の時間帯に当時の交際相手に「Miss you so much」とメッセージを送信していたが、裁判長は「犯行直後に交際相手にメッセージを送信することもあり得る」としてこれを退けた。 控訴審に向けて、イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ・石塚章夫理事長)と弁護団(竹田真主任弁護人)は、足利事件の雪冤で知られる佐藤博史弁護士の協力を得て再検証に入った。2025年2月に鑑定の生データとオリジナルのEPG(エレクトロフェログラム)が開示され、弁護団の角替清美弁護士がこれをサンフランシスコのDNA鑑定専門家サイモン・フォード氏に送付。フォード氏は、生データから作成したEPGと山田鑑定書のEPGを照合した結果、山田教授がペインさんのDNA型を複数「加筆」する一方、ペインさんとは異なる第三者のDNA型を削除し、真犯人とペインさんのDNA型が一致するようデータを改ざんしたと結論づけた。藤田法科学研究所の藤田義彦氏(元徳島文理大学薬学部教授)も「いずれも加筆されている」との意見書を提出した。上告趣意書によれば、山田鑑定は①なかったペインさん由来のデータを加筆、②ペインさん由来ではなかったデータを削除、③電気泳動を31回試行しながら鑑定書には採用した4回分だけを記載し他を記載しない、という手法だったとされる。 千葉地裁の証人尋問で山田教授は、ある座位で被害者の型しか検出されなかった場合について「同じ型と判断し、検出されていないとは考えない」「そこだけ出ていないなら不都合がありますので、他の座位が比較的きれいに二人分として出ていて一か所だけ被害者しか出ていないとなれば、そこも出ていて重なっていると判断します」と証言した。弁護団はこれを、被告人のDNA型をあらかじめ知っていたことによるバイアスの産物だと指摘し、角替弁護士は「答えを知って試験を受けるようなものです」と述べている。 2025年12月11日、東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)は懲役8年の一審判決を破棄し、審理を千葉地裁に差し戻した。判決は、生データを解析したところ4つの座位で山田鑑定と異なる結果になったと認定し、「付着物には、被告人のDNAとも被害者のDNAとも異なるDNAが含まれており、型として判定されなければならないものを、合理的な理由もなく削除したということができるようにも思われる」と疑義を認めた。一方で「試料が少なく、アレルドロップアウトが生じた可能性も否定できない」として断定は避けている。 弁護人は「山田鑑定への疑義から有罪判決を破棄したのなら、東京高裁は無罪判決を出すべきだ」として無罪自判を求めて上告したが、2026年6月20日、最高裁第一小法廷(宮川美津子裁判長)はこれを棄却し、千葉地裁での差戻審に進むことになった。ペインさんは逮捕から約4年にわたり勾留が続いており、弁護団が医師の意見書を添えて複数回行った保釈請求はいずれも却下されている。2026年3月には米国から来日した母親が日本外国特派員協会で会見し、有罪判決が取り消されてなお身柄が拘束されていることを訴えた。 本件は、足利事件以来のDNA鑑定による冤罪として「第2の足利事件」と位置づけられ、IPJが支援している。IPJ事務局長の笹倉香奈・甲南大学教授は、生データに基づく鑑定検証が日本の刑事手続で徹底されてこなかった問題を指摘し、科捜研を警察から独立した「科学者の組織」とすべきだと述べている。

事件発生
2018年
被告人
クリストファー・スティーブン・ペイン(Christopher Steven Pain)
判決
一審:懲役8年(2024年7月9日、千葉地裁) → 控訴審:原判決破棄・差戻し(2025年12月11日、東京高裁第4刑事部) → 差戻審係属中
現在のステータス
一審有罪破棄・差戻し中
冤罪の原因
鑑定の問題、客観的証拠の欠如、人質司法、証拠捏造

タイムライン

事件不利有利手続事後
2018.07.12事件発生

千葉県市川市で駅から帰宅途中の女性が襲われ口淫を強要された事件が発生。被害者は現場で精液を吐き出し帰宅後うがいをして通報したため、口腔内から採取された犯人精子は微量かつ被害者細胞との混合資料となった

2020.02住居侵入事件で現行犯逮捕

別件(住居侵入:酔って他人宅玄関で寝込んだ)で現行犯逮捕。その際、任意で口腔内細胞を提出。千葉県警科捜研のDNA鑑定で事件犯人のDNA型と「矛盾しない」と判定

2021.11.25ペイン氏 逮捕

事件から3年4か月後、DNA型が犯人と「矛盾しない」こと、事件当時に現場付近に居住していたことを理由にペイン氏(当時30歳)が逮捕

捜査:千葉県警
2021.12.15起訴

千葉地裁に起訴

2022裁判所が再鑑定命令

国選弁護人のDNA再鑑定請求を受け、千葉地裁が職権で神奈川歯科大の山田良広教授にDNA再鑑定を命令。山田鑑定は「一致と仮定した場合の出現頻度約17兆人に1人」と報告

2023.01.10IPJが私選弁護人として介入

国選弁護人が有罪を前提に説得を進め、裁判員裁判期日(2023年1月16日)の6日前にIPJが微量混合資料の鑑定の信頼性を問題視して私選弁護人として介入。国選弁護人解任、裁判員裁判期日取消し、否認前提の公判前整理手続が再開

2024.06.10裁判員裁判 開始

千葉地裁で裁判員裁判が開始(6月21日まで)。弁護人はDNA鑑定は情況証拠にすぎずアリバイ証拠に照らして無罪と主張

2024.07.09一審 懲役8年

千葉地裁が山田鑑定の出現頻度により合理的な疑いはないと判断し、懲役8年の有罪判決。弁護人は即日控訴

2025EPG改ざんの可能性浮上

生データとオリジナルEPGの検討の結果、山田鑑定ではEPGにペイン氏のDNA型を加筆し犯人のDNA型を削除してデータが改ざんされた可能性が浮上

2025.02.13山田鑑定の生データ開示

米国DNA鑑定専門家Simon Ford博士の助言でEPG(エレクトロフェログラム)が編集可能なことが判明し、弁護人が生データとオリジナルEPGの開示を請求。山田教授から開示

2025.10.06控訴審初公判

東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)で控訴審第1回公判。検察官に山田鑑定の再吟味を求めている

2025.12.11控訴審 原判決破棄・差戻し

東京高裁第4刑事部(家令和典裁判長)が懲役8年の一審判決を破棄し、審理を千葉地裁に差し戻した。一審が有罪の根拠としたDNA型鑑定(神奈川歯科大の山田教授によるもの)の評価について「審理が尽くされていない」と判断。東京新聞報道によれば、高裁は別人のDNA型も検出されたのに「削除して鑑定」されていた点を疑問視。ただし弁護人のアリバイ主張には言及なし。差戻審では一審で改めてDNA鑑定の適切性を検討することになる

2026.03.06母が日本外国特派員協会で会見

米国インディアナ州に住む母ロンダ・テリル・ペインさんが妹とともに来日し、東京拘置所で息子と面会したのち、離日する3月6日に日本外国特派員協会で弁護団とともに記者会見した。「有罪判決が取り消されたのに、なぜ息子は拘束されているのですか。アメリカでは有罪が証明されるまで無罪です」と訴えた。会見では角替清美弁護士が、鑑定人が試料になかったDNA型を書き加え、被害者にも被告人にも由来しないDNA型を削除していたとEPGのグラフを使って英語で説明した。

2026.06.20最高裁が上告棄却、差戻しが確定

弁護人は「山田鑑定への疑義から有罪判決を破棄したのなら、東京高裁は無罪判決を出すべきだ」として無罪自判を求めて上告していたが、最高裁第一小法廷(宮川美津子裁判長)はこれを棄却した。事件は千葉地裁での差戻審に進むことになった。

裁判長:宮川美津子
2026.07.24千葉拘置所へ移送(勾留4年近く)

逮捕から約4年、東京拘置所に収監され続けたのち千葉拘置所に移送された。弁護団は片頭痛の持病等について医師の意見書を添えて複数回保釈を請求したが、「証拠隠滅のおそれ」「逃亡のおそれ」を理由にいずれも却下されている。

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